CoSTEP前夜
北海道大学の「科学技術コミュニケーター養成プログラム」を受講するまで
はじめまして!久本空海(ひさもとそらみ)と申します。
明日から1年間、北海道大学のCoSTEPによる「科学技術コミュニケーター養成プログラム」を受講します。
せっかくなので、日記を書いて、公開していきます 🥳
まずは始まる前に、ひとつ …
CoSTEPってなに?
CoSTEP(こーすてっぷ)は、「科学技術コミュニケーション」へ取り組む、北海道大学の教育・実践・研究組織です:
CoSTEP – 北海道大学 大学院教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
ウェブサイトの概要ページでは、以下のように述べられています(2023-05-12参照):
北海道大学 大学院教育推進機構 オープンエデュケーションセンターに設置されている、科学技術コミュニケーション教育研究部門 CoSTEP(Communication in Science & Technology Education & Research Program; コーステップ)は、 科学技術コミュニケーションに取り組む、北海道大学の教育・実践・研究組織です。
科学技術コミュニケーションの教育・研究・実践を、互いに有機的に関連づけつつ、学内外の機関と積極的に連携を進め、科学技術コミュニケーション活動を担う人材養成を行なっています。
そのCoSTEPが実施しているのが「科学技術コミュニケーター養成プログラム」です。CoSTEP自体は先に述べたように組織の名前なのですが、多くの場合には、その名称でプログラムのことを指します。
2023-05-14追記: 開講式ガイダンスで聞いたところによると、この教育プログラム名、スタッフの所属組織名、どちらも「CoSTEP」なんだそうです。
これは約1年間のプログラムで、対面(北海道大学への通学)の「本科」と、主にオンラインで受講し、加えて実地での数日間の集中演習を行う「選科」があります(CoSTEP修了生向けに「研修科」もあります)。
プログラムでは、学内外の方々による「講義」の受講や、様々な知識とスキルの指導を受ける「演習」、そして教員と学生がチームとなって社会で実践する「実習」を行います。
開講科目や、受講生の講義レポートなどを、公式サイトで見ることができます:
CoSTEPの教育 – CoSTEP – 北海道大学 大学院教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
私の来歴と興味
文脈を共有するため、まず少し、私自身のことを述べます。
私は情報科学を専門としており、もともとは、コンピューターで ”人間の言葉” を扱う「自然言語処理」という分野を専門としていました。
その後、言語から移って、最近は ”位置情報・地理空間情報” を扱い「地図制作」や「データ可視化」を行なっています。
「言語」から「地図」というと一見、大きな転換のようですが、個人的な興味関心は変わっておらず、広く「コミュニケーション・思考・記録のための道具」、そしてそれらの新たな形をコンピューターによって開拓することに興味があります:
地図と可視化とコミュニティ(それと言語) / Data Visualization Japan Meetup 2022 - Speaker Deck
現在は、北海道のMIERUNE(みえるね)という会社で、ソフトウェア・エンジニアをやっています。
私とCoSTEPのつながり
いつ、どこで最初にCoSTEPに触れたのかは覚えていないのですが、遠い知り合いの湯村翼さん(現在は北海道情報大学情報メディア学部の准教授)が受講しているのを見て(2020年度)、その名前には覚えがありました。湯村さんのブログにはCoSTEPの記事があります:
また、以前から興味深く読んでいた科学や技術を論じるブログの著者、丸山隆一さんが受講されていた(2016年度)ことも、最近になって知りました:
- 受講メモ:書くことについて考えたこと(CoSTEPライティング演習の感想) - 重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)
- 読書メモ:「科学コミュニケーション」関連書籍4冊 - 重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)
そのようにして朧げながらその存在は知っていたのですが、ご縁があって1年前(2022年春)に北海道へ引っ越してきたことで、具体的に受講を意識するようになりました:
北海道でGIS / MIERUNE Meetup mini #04 - Speaker Deck
また、私が現在所属する会社、MIERUNEを創業したうちの一人がCoSTEPの卒業生(古川泰人さん、2008年度)でした。この人は、元々は生態学をやっていて、ヒグマを解剖したり、イリオモテヤマネコを追いかけたりしていたそうです。CoSTEP関連のウェブサイトでもインタビューが掲載されています:
科学とITを武器に社会課題を解決していく – SciBaco.net
CoSTEPに行こうかなという気持ちは、私の中では既にかなりあったのですが、その古川さんが「自身にとって大きなインパクトのある体験だった」と述べていたり、私の興味や性格を踏まえて「キミも向いていると思うよ」と言われたのもあり、今回、応募することにしました。
ちなみに古川さんはその後、CoSTEPで同期だった方などとQGISというオープンソースソフトウェアの勉強会を北大で始めて、それが元でFOSS4G Hokkaidoというイベントの立ち上げに関わり、そしてその運営メンバーと共にMIERUNEを創業したそうです。私はこのMIERUNEとのご縁で、北海道へ引っ越してきて、対象分野も言語から地図へ変えたので、受講前からもうCoSTEPに人生を左右されているといっても過言ではないでしょう 🎲
プログラムへの応募
まず、2022年度のCoSTEP修了記念シンポジウムと成果発表会が2023年3月にあったのですが、私は紋別へ流氷を見に行っていて参加できませんでした 🧊
その後、2023年度プログラムの受講説明会がオンラインで行われ、こちらに参加しました。これは今でも録画を視聴することができます:
2023年度CoSTEP受講生募集(本科・選科) – CoSTEP – 北海道大学 大学院教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
この説明会では、教員陣によるプログラム全体の解説や、2022年度受講生の座談会がありました。質疑応答はイベントのページでもテキストとして確認できます。
上でも述べたようにCoSTEPには、北大への通学を基本とする「本科」と、オンライン受講を基本とする「選科」があります。
2023年度はグラフィックに強い教員が、これまでにない3名もおり、新たに「選科C」というインフォグラフィック制作を行うコースが開設されます(「選科A」はサイエンスイベント企画運営、本年度未開講の「選科B」はサイエンスライティング)。
もともと私は「せっかく札幌にいるし本科かな〜」と思っていたのですが、この説明会で、教員の奥本素子さんが「『本科はちょっと忙しそうだからムリかも…』と言われる方もおられますが、はっきり言って本科の方がオススメです!」「1年間で様々なスキルを教員のもとで学ぶ機会はなかなか無い」「迷ってて通学できる方は本科にチャレンジしてみてください」などと仰っているのも聞いて(動画 21:48~)、そうすることにしました。
本科では、どれかひとつの実習班に所属します。2023年度は、以下3つの班があります:
- 対話の場の創造実習
- グラフィックデザイン実習
- ソーシャルデザイン実習
応募時にはどの実習を希望するか述べることができます。私は上にも書いたように「思考のための道具」に興味があり、中でも「視覚表現」の模索に強い関心があって、これまでも色々と取り組んできたため、「グラフィックデザイン実習を強く希望」として応募しました。
また応募時には、「志望理由」と「課題文」の提出を求められます:
2023年度CoSTEP受講生募集(本科・選科) – CoSTEP – 北海道大学 大学院教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
志望理由
北海道大学科学技術コミュニケーター養成プログラムで学びたい理由、学びたいこと、また、修了後学んだことをどう活かそうと考えているかを整理し、以下に記してください。(500字以内)
これに対して、私は以下の文章を提出しました:
私は「情報科学」を専門とする者です。コンピューターで ”人間の言葉” を扱う「自然言語処理」や、 ”地理空間” を扱う「地理情報システム」といったトピックへ取り組んでいます。これまで、大学や研究機関での学術研究、民間企業での応用開発、双方に従事してきました。
他の多くの科学技術領域に比べ、当分野は研究と応用の垣根が低く、また変化が激しくなっています。このような状況下で、市民は適切な理解に基づく冷静な判断が、専門家は社会への影響を見据えた振る舞いが望まれます。そのためには分野を超えた交流が欠かせないでしょう。
当プログラムで科学技術コミュニケーションの思想と技法を学ぶことで、様々なセクター間の交流をより意義深いものにすることができると考えています。
個人として特に、専門知識を適切に伝えるための表現方法、中でも「視覚表現」の模索に強い関心があります。それによって、専門家の技術理解や協働、そして社会への誤りのない知識の広報を促進できると考えます。
加えて、ふだん接点のない分野の、しかし相似する問題意識を持つ方々と出会うことで、新たな視点を獲得したり、共創の機会を得ることも期待しています。
課題文
科学技術コミュニケーションに関わる問題を1つとりあげ、解決へ向けて今後自分がどんな役割を果たしたいかを述べてください。(800字以内)
こちらには以下を提出しました:
機械で言葉を扱う「自然言語処理」は前例のない進展を迎えています。
2022年11月登場の対話サービス「ChatGPT」は魔法のように流暢な受け答えを行い、ユーザー数は2ヶ月で1億を超えました。これはInstagram(2年半)やTikTok(9ヶ月)も上回ります。マイクロソフトは開発会社OpenAIへ1.3兆円の追加投資を表明、他の巨大企業も追従しています。
ChatGPTは専門家でも分からないことが多い状況です。虚偽情報の出力といった危険性もあります。学習データが原典の利用規約に反するとの指摘もあります。元となる「GPT-3」は学習処理だけで460万ドルかかると言われ、さらに2023年3月の「GPT-4」は論文に詳細が全く示されておらず、学術界として取り扱いが難しくなっています。
そんな中、これは既に人口へ膾炙しています。今回のCoSTEP応募でも、ChatGPTによる文章が少なからずあるでしょう。この流れは止められません。
健全な進歩のためには、技術の正しい理解を元に、様々なセクターの倫理や利害を踏まえ、価値判断を下す必要があります。そこで科学技術コミュニケーションの思想と技法が活躍するでしょう。
例えば、私も運営に関わった言語処理学会による年次大会(2023年3月)は、緊急パネル『ChatGPTで自然言語処理は終わるのか?』を開催し注目を集めました。他にも私は、言語処理と地理空間情報を繋ぐコミュニティ(100名超参加)を運営し、学際交流を試みています。これら取り組みに、科学技術コミュニケーションの知見が参考になると考えます。
加えて、言語処理”自体”と科学技術コミュニケーションの相互発展も考えられます。機械との「対話」というインタフェースの改良に後者が参考になるかもしれません。逆に、後者への技術活用も進めるべきだと考えています。
(この文章は人間が執筆しました)
面接
上記の書類選考を経て、本科の場合には、最後に面接がありました。オンラインで行われ、15分ほど、教員の方々へ向けて、自己紹介や、CoSTEP受講を希望する理由などなどをお話ししました。
選考結果通知
面接の数日後に選考結果が出て、無事に受講できることとなりました!
ただ、私は「グラフィックデザイン実習」を希望していたのですが、結果として「ソーシャルデザイン実習」の配属になりました。面接での話題や、他の受講生の方々との組み合わせを踏まえてのものかと思います。私はグラフィックデザイン実習ばかりを見ていたので驚きましたが、それから色々とソーシャルデザイン実習について見るに、こちらも確かに相性としては良いのかもしれないなぁと今は思っています。どちらにせよ、グラフィックデザイン関連のトピックは「演習」の方でも学んでいくことになります。
始まる
「科学技術コミュニケーション」って、そもそもなんなのでしょうか。
それが、私の興味対象である「コミュニケーション・思考・記録のための道具」と関係しているように感じたから受講を決めたわけですが、実際にはどのように繋がっていくのかも、まだ漠然としていて掴めていません。それをこの1年間で自ら、学び、実践していく場となるでしょう。
また、普段接点のない、異なる来歴の方々とご一緒できるのも楽しみです。
さて、明日から1年間、どうなるでしょうか。誰に強いられたわけでもなく、好きでやるわけです。せっかくなら、とことん味わって、楽しみたいですね 🤗