科学技術コミュ日記

大きなもの、小さなもの、沢山のもの

ス・ドホやジェフ・クーンズといった芸術家と、作品のスケール、パブリックアート、など

北海道神宮の第一鳥居
北海道神宮の第一鳥居

土曜日(6月17日)は快晴、札幌もかなり気温があがりました。実習でまたアート談義をしたり、講義で科学ジャーナリズムのお話しを聴いたりしました。今日の記事は、実習について。

(2023-06-20追記: 講義についても書きました

あと最近、ポッドキャスト(オンラインのラジオ番組)に呼んでもらって、そこでもCoSTEPについてお話しました:

1. 久しぶりの近況報告。soramiさんが通ってる面白い学校 (sorami) | 界隈.chat

最近のこと

さて、実習です。まずは導入、それぞれの「今週あったこと」を共有する時間から。

私のいる会社(MIERUNE)でも毎朝、全社の朝会があって、そこでランダムに選ばれた一人が何か小噺をするというのをやっているのですが、こういった機会は、自分の知らない界隈を知ることができて楽しいものです。

この日の私は「札幌を走る路面電車を貸し切った話」をしました。ふと思いついて会社でやってみたら、普段の街並みを非日常な視点から見ることができてとても楽しかったです。札幌市電については、この実習班メンバーに詳しい方がおられたり、CoSTEPでも貸切イベントをやったことがあったりとで、数週前に経験をお聞きしていたのでした:

「札幌市電」を貸し切ったら、社員全員でなまら盛り上がった話 🚋 |MIERUNE Inc.

青写真

続いては、先週の実習でやった「青写真制作」を見ながら、ふりかえりをしました。

この青写真は、8月に開催される「サイエンスパーク」という子供向けのイベントで体験クラスを開催する予定で、我々実習班もそちらに関与することになっています。それに向けて、どうするのがいいかなあなどと話していました:

2023サイエンスパーク|体験教室への応募(8月5日) - 総合政策部次世代社会戦略局科学技術振興課

「大きさを体験したら」

CoSTEPの本科実習は、班ごとにかなり色合いが違います。例えば最近の「対話班」は、来るサイエンスイベントの開催へ向けて準備に忙しそうです。

我々ソーシャル・デザイン班は、「アート」が大きな要素となっているのが特徴です。そしてこれまでも毎回の実習で、担当する朴炫貞さんから、さまざまな作家が紹介されてきました。

個人的には、世の中にはいろんなことをやる人がいるなぁと面白いのですが、まだそれが「科学技術コミュニケーション」と結びつくようなイメージにはなっていません。

前々回は「マリーナ・アブラモヴィッチ」と「バーバラ・クルーガー」、前回は「ジェームズ・タレル」と「ローマン・オンダック」という作家が紹介されました。

今回は「大きさを体験したら」というテーマで、ふたりの作家が紹介されました。

ス・ドホ

まずは、ス・ドホ(Do Ho Suh)。韓国出身の作家で、建築物をテーマにした作品が多いようです:

Do Ho Suh - Wikipedia

実習ではまず、1分の1スケールで、実際に彼が暮らした建物を「生地」(朝鮮民族の伝統衣装チマチョゴリにも使われるものらしい)で再現するという作品が紹介されました:

ディテールまでをも刺繍で再現していて、またそれが全てフルスケールで存在していて、そしてそれが透けている。不思議な感じがします。鉄などで作られた彫刻と違って軽いので、吊るして中空に展示されることもあります。また、一つの家の「中」に、もう一つの家を入れる、という形になっている作品もあるそうです。

朴さんに見せてもらった書籍では、制作のために建物を3Dスキャンしている様子も掲載されていました(“Do Ho Suh: Home within Home” (Leeum Museum of Art, 2012), p.163):

Home within Home

これをみて、私が専門とする「位置情報/地理空間情報」の分野において近年盛り上がっている、国土交通省による3D都市モデルプロジェクト「PLATEAU」のデータを思い出しました:

PLATEAU [プラトー] | 国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト

MIERUNE 3D-Viewer Demo

MIERUNE 3D-Viewer Demo - 北海道札幌市3D都市モデル

こういったデータは近年急増し、それがWebの地図や、はたまたVR/ARやメタバースといったものに取り入れられ始めています。

しかしやはり、物理的に存在することのインパクトは未だ大きいのだろうなあと思います。今回はあくまで写真や動画で作品を見ましたが、実際にその場へ行き、見て、その中を歩き回ってみると、また違った感覚を得るのでしょう。

ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)

次にジェフ・クーンズ(Jeff Koons)。作品が100億円以上で落札されたこともあるような、現代の作家だそうです。

上記の動画は、巨大な風船の犬をステンレス鋼で作った「Balloon Dog」です。鼻口部分や足元のシワが、金属で忠実に再現されていることに目が行きます。光沢があり反射する表面が周りの風景を映し「インスタ映えする」と朴さんは言っていました。

大きいもの

私は主に、Webのモノを作っており、それは基本的に「平面」で、「スクリーンのサイズ」に制限されます。そのため、立体のものや大きなものが新鮮で、面白いなあ、力(ちから)があるよなあと感じます。

実習では、巨大なアヒルちゃんを港や川などに浮かべる「Rubber Duck Project」も紹介されていました:

ラバーダック・プロジェクト/世界中を旅する巨大アヒル

(ちなみに以下は、Web地図開発の勉強がてら先日やってみた「巨大アヒルちゃん on 支笏湖」 - MapLibre GL JS & Three.js - 地理院タイル - 標高, 全国最新写真(シームレス), KhronosGroup/glTF-Sample-Models

支笏湖に巨大なアヒルちゃん

他には、青森県立美術館にある、奈良美智の「あおもり犬」なども言及されていました。私は昔、青森に行った時にたまたまこの美術館に立ち寄って、そこで雪の中にあるこの巨大な犬を見たのが記憶に残っています。いい感じでした:

奈良美智の「あおもり犬」(2016, 著者撮影)

また「大きいもの」という観点では、その近くにある三内丸山遺跡も、とても印象に残っています。縄文時代前期〜中期(約5,900~4,200年前)の遺跡だそうですが、そこの六本柱建物(復元)には、「こんな大きいものがあったのか!!」と、そのスケールにかなり圧倒されました。明らかに大きい。現代の建築物を見た上でもそう感じるので、当時の人々からしたらとんでもないサイズ感だったのではないでしょうか:

三内丸山遺跡(2016, 著者撮影)

また同じ青森県の十和田現代美術館には「おばさんの像」が展示されています。これは見た目自体は普通のおばさんなのですが、高さが4m近くあります(ロン・ミュエク「スタンディング・ウーマン」, 2008)。その昔に行った時には、なんか分からんけどおもしろいなあ、と眺めていた記憶があります。

パブリックアート

美術館などではなく広場や道路などの公的空間に設置された作品を「パブリックアート」と呼ぶそうです:

パブリックアート - Wikipedia

このような作品は、ふだん美術館へ足を運ばない人々も目にしますし、また街のシンボルとして機能することもよくあるでしょう。

昔、米国のデンバーという街に行った時、そこに巨大な青いクマがいて、ビルを覗いていました。びっくりしましたが、面白く、また今でも記憶に残っています(今調べて知りましたが、Lawrence Argentによる「I See What You Mean」という作品だそうで、元々は砂岩色を想定していたけど、デザインを印刷したものが間違えて青色になって、むしろイイねということでこうなったそうです - cf. Denver’s Blue Bear):

デンバーの青いクマ

また、北海道の東、釧路に行った時は、幣舞橋(ぬさまいばし)のふもとに「Cool KUSHIRO」というモニュメントがありました。2020年12月に設置されたそうです。このようなモニュメントは、各地で観光時の写真撮影スポットになったりしていますね:

Cool KUSHIRO モニュメント | 観る・楽しむ | 釧路・阿寒湖観光公式サイト SUPER FANTASTIC Kushiro Lake Akan

Cool KUSHIRO

「大仏」も、パブリックアートの一種と言えるのでしょうか。札幌の南にある真駒内滝野霊園には「頭大仏殿」というものがあり、その中には大仏が鎮座していて、天井に開いた円を突き出ています。建物の上面はラベンダー畑になっています。建築家の安藤忠雄さんが設計したそうです。ちなみにこの霊園には、モアイ像やストーンヘンジなどのレプリカもあったりします:

頭大仏殿|真駒内滝野霊園【公式】

頭大仏殿

札幌で個人的に好きなのは、地下鉄大通駅にある「ザブーン」です。高橋喜代史さんという方が作られたそうで、2021年2月から3年間、展示されているそうです:

TAKAHASHI Kiyoshi

ザブーン

私はコレがかなり好きで、待ち合わせではよく「大通駅5番出口地下1階のザブーン前で!」というのですが、これまで相手がピンと来たことはないです(笑)

小さいもの、沢山のもの

上で紹介したス・ドホによる他の作品に「Floor」というものがあります。床に大量の人形が敷き詰められ、その上に透明な板が置かれ、その板を人形たちが支えています。部屋へ入って自由にその上を歩き回ることができますが、実際に目にしたら乗るのに躊躇しそうです:

他には、軍人の個人認識票(ドッグタグ)を連ねて作ったドレスも、似たように小さなものが集まって作られています:

Some/One, Do Ho Suh | Mia

多くのものを扱うという点では、前々回に紹介されたマリーナ・アブラモヴィッチによる、血に塗れた大量の牛骨を何日にもわたって磨く、という作品も思い出します。1997年に行われたこのパフォーマンスは、ユーゴスラビア紛争の犠牲者へ捧げられているそうです:

また、集めるという点では、上記のようなメッセージ性が込められているアートとは異なる文脈ですが、「マイブーム」という言葉を造ったことでも知られるみうらじゅんが、一般に着目されていない様々なものをコレクションし、そこに面白さを見出している話も思い出しました:

そこで必要になってくるのが、無駄な努力です。興味の対象となるものを、大量に集め始めます。 好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになる という戦略です。
人は「大量なもの」に弱いということが、長年の経験でわかってきました。大量に集まったものを目の前に出されると、こちらのエレクトしている気分が伝わって、「すごい!」と錯覚するのです。

みうらじゅん『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋, 2015)

この日は「大きいもの」という話題がまずありましたが、他にも逆に「小さいもの」や「沢山のもの」というのも、表現の方法としてあるのだなあ、強力だなあと思いました。同じように考えると、例えば、時間(「とてつもなく時間をかけたもの」とか)や範囲(「世界中のさまざまな場所に」とか)、といった方向性もあるかもしれません。

薬の小話

この日の実習は最後に、当班を担当するスタッフのひとり、寺田一貴さんから、「薬」についてのお話がありました。

寺田さんは2021年度にCoSTEP17期の選科Aを修了されて、それで科学技術コミュニケーションにハマったそうで、今年度からスタッフとして参加されています。

もともとは薬学が専門ということで、「薬ができるまで」について簡単に紹介してくれました。ひとつの薬が世に出るには大体13年、500億円ものコストがかかるそうで、そしてその特許は20年で切れてしまいます。そして特許申請は薬の候補が見つかった時点で行われるそうで、販売開始から20 - 13 = 7年で特許が切れ、ジェネリック薬が登場し、売り上げが激減するそうです。これが「パテントクリフ(特許の壁)」と呼ばれるとのこと。

その上で、製薬会社による薬の値段について、「新薬開発のためには仕方ない」「薬価を下げるなど患者のための開発をすべきだ」というスペクトラムで、それぞれがどれくらいだと思うかを示した上で、意見を述べあったりしました。

実習は進むにつれ、スタッフではなくメンバーが喋るのが主になってくるそうです。それまでスタッフたちがいろいろなボールを投げている、というようなことを朴さんが仰っていました。特にソーシャル・デザイン班は、他の班と違い、やることが決まっていないため、このようにスタッフやメンバーがお互いの話をしたり、知り合っていくことで、どのような対象と手段を選ぶか探っていくことになりそうです。まだまだこれからです 🧸