「サイエンスイラストレーション」という手法
モジュール2「表現とコミュニケーションの手法」課題レポート
7月の講義は、モジュール2「表現とコミュニケーションの手法」(全4回)でした。7月と8月の講義・演習・実習については2023-10-14の日記に書きました。
以下、モジュール2の課題レポートをここに公開します。CoSTEPスタッフでサイエンスイラストレーターの大内田美沙紀さんによるお話を題材にしています。
ちなみに、モジュール1の課題レポートも公開しています: 科学技術に関わる活動が専門家のみで行われることの限界? - 科学技術コミュ日記(2023-07-15)
また、2020年度に受講された湯村翼さんもモジュール2の課題レポートをご自身のブログで公開されています: 北大CoSTEPモジュール2「表現とコミュニケーションの手法」を受講しました #costep - yumulog
課題
モジュール2の講義で取り上げた、コミュニケーションの手法の中から一つ選び、その特徴を踏まえ、メリットとデメリットを分析し、実践に活用する際に工夫しなければならない点を具体的に述べてください。(800〜1200字程度)
提出文
「サイエンスイラストレーション」は、科学的概念や現象を図示し、視覚的に伝えるものです。
言語を用いた情報伝達と、視覚表現によるそれは、特徴が大きく異なります。言語表現は、多くの場合、厳密な論理的思考や抽象的概念を深く検討するのに適しています。一方、イラストのような視覚情報は、人間にとってその認知が、言語とは異なる形で、より直観的に、迅速に行われます。さらに、直列に表される言語表現と異なり、視覚表現は、大量で多様な情報を同時に提示することに長けています。イラストに限らず、例えば地図にもそのような特性があると言えるでしょう。
写真は、イラストよりもまさに写実的なコンテンツですが、それがイラストの上位互換であるとは言えません。実世界に縛られることなく、自在に抽象化して表現するのは、写真にはできないイラストの特徴です。特に科学の領域では、具体例よりも抽象概念を検討することが多いため、イラストのほうが適していることも多いと思われます。また、恐竜のような現存しない生物や、分子のような直接の可視化ができない存在も、イラストでなければ表現できません。
またイラストには、キャッチーさ、まさに「目を惹く」力があります。近年、影響力の大きい論文誌で、文章での妙録(アブストラクト)に加え、グラフィカル・アブストラクトが求められるようになってきたことは、その表現力の効果が認識されている証左と言えるでしょう。
しかしサイエンスイラストレーションは、誰にでも容易に作れるものではありません。その制作には技術と労力が求められます。また、特に科学の領域では正確性が重要視されるため、一般的なものよりもさらにハードルが高くなります。さらに、イラストにも様々なテイストがあり、想定するオーディエンスへ適切にあわせる必要があります。
研究者自身が、一定水準のイラストを制作できるようになることは、知識共有において有益でしょう。近年、コンピュータ技術の発展により、イラスト制作のハードルは以前よりも下がってきました。しかし、ツールの使い方だけでなく、その背景にある考え方、「良い視覚表現とは何か」という観点からの検討がなされてこそ、その真価は発揮されるでしょう。
さらに高度なイラストレーションを求める場合には、専門家と連携する必要があります。その際、単にそれを下請け仕事として投げるのではなく、研究者とイラストレーターが密接に協働することが重要でしょう。サイエンスイラストレーターで研究者の有賀(大河)雅奈さんはある時、研究者から次のように言われたそうです:
「あなたがしているのは研究者の「手伝い」ではない。研究者と同じゴールをともにし、研究をつくっていく一員なんだ。」 [1]
サイエンスイラストレーションは、科学技術コミュニケーションという営みにとって強力な手段です。それが専業であれ、職能としてであれ、活発に用いられることは、科学技術の共有と発展へ大きく寄与すると私は考えます。
[1] http://largeriver.blog123.fc2.com/blog-entry-196.html
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