モジュール3講義、9月と10月の活動
講義: 哲学思考の方法及びその伝え方~哲学カフェやメディアでの実践から~(小川仁志), ミニ・パブリックスと参加・熟議のデザイン(三上直之), 複雑さに対処するためのシステム工学(三浦政司), 観察と発見のデザイン(三澤遥), 社会課題解決のための協働型評価~対話とエビデンスの交差(源由理子) / 演習: グラフィックデザイン演習(池田貴子), プレゼンテーション演習(古澤正三・福浦友香・池田貴子・大内田美沙紀) / 実習 / サイエンスカフェ「採鉱学再考」, 選科C(インフォグラフィック制作), もくもく会, 昨年度講義(身体や心に介入する技術に対する倫理, 佐藤岳詩)
7月と8月の講義・演習・実習(2023-10-14)から季節は変わり、もうすっかり寒くなりました。昨日(11月11日)は、札幌に初雪が降りました。
講義は、モジュール3「活動のためのデザイン」が5回(うち一回はe-learning)あり、モジュール4「科学技術の多面的課題」のうち2回が10月におこなわれました。この記事ではモジュール3のみに言及し、モジュール4についてはまた別途、まとめて記載します。
2023-11-24追記: モジュール4講義について書きました: In between - 科学技術コミュ日記(2023-11-24)
演習は、グラフィックデザイン演習、著作権演習(未参加)、プレゼンテーション演習がありました。
実習は、8月の青写真ワークショップを経て、次のイベントへ向けて準備を進めています。
そのほか、サイエンスカフェ(「採鉱学再考」)のお手伝いをしたり、選科C(インフォグラフィック制作)の発表会を見たり、もくもく会をやったり、過去の講義(佐藤岳詩「身体や心に介入する技術に対する倫理」)を視聴したりしました。
講義 - モジュール3「活動のためのデザイン」
哲学思考の方法及びその伝え方~哲学カフェやメディアでの実践から~(小川仁志)
NHKの番組「ロッチと子羊」などにも出演されている哲学者の小川仁志(おがわひとし)さんが、ご自身の哲学カフェやメディア出演の経験をもとにお話されました。
講義では「実践的ファシリテーションの極意」を紹介されていましたが、「促す」「盛り上げる」「繕う」といった点は、そうだよなあと思いつつ、自ら実践するのには試行錯誤が必要なのだろうなあと思いました。
私は都合が合わず、後日オンライン視聴したのですが、講義の中でインタラクティブにアドリブで受講生らと対話していて、まさにファシリテーションの極意を実践されており、とても楽しげな雰囲気でした。
ミニ・パブリックスと参加・熟議のデザイン(三上直之)
社会の縮図となるメンバーをランダムに選出し、一定期間集まって熟議するという「ミニ・パブリックス」という手法について紹介されていました。
三上直之(みかみなおゆき)さんは2005年、CoSTEPの発足と同時に着任されたそうです。今年(2023)の10月に名古屋大学へ異動されることとなり、それに伴うイベント(「三上直之と100人の市民カイギ〜」)だったため、CoSTEP受講生の他に多くの方が参加されていました。
専門家だけでなく社会の構成員を集めて議論するという手法は興味深いですが、その成果をどう政策などへ活かしていくかについては、まだまだ課題があるようです。また、参加者にとってはなかなか負担があるものだろうかなあ、と思いました。
参考:
- 三上准教授の異動に伴うイベント〜三上直之と100人の市民カイギ〜|北海道大学 高等教育推進機構 高等教育研究部
- モジュール3-2「ミニ・パブリックスと参加・熟議のデザイン」(9/9)三上 直之先生講義レポート – CoSTEP
複雑さに対処するためのシステム工学(三浦政司)
JAXAなどで宇宙開発に長年携わってきた三浦政司(みうらまさし)さんによる「システム工学」についての講義です。
アポロ計画は、最大で40万人にも及ぶ人々が関わっていたそうで、そのような複雑性の高い宇宙・航空などの分野で培われてきた、複雑だけど目的を満たすものを実現するためのベストプラクティスを体系化したのが「システム工学」だとのことです。
「日本の宇宙開発・ロケット開発の父」と呼ばれる糸川英夫は、「システム工学は焼き鳥の串である」と述べたそうで、なかなか面白い表現だなあと思いました:
「システム工学は焼き鳥の串である」という糸川の至言がある。焼き鳥はネギやらタンやらハツやらが一本の串に支えられて大変食べやすいように串指しにされている。串そのものは食べられないが,多くのおいしい物を一本の焼き鳥にまとめて,食べやすいようにする。人間の事業も,ヒトと時間とカネとが複雑に絡み合って成り立つわけだが,これを上手にアレンジして見事な戦略・戦術・スケジュールに仕上げて管理していくのが,システム工学の真髄である。糸川は,こうしたヒラメキのある類比で仕事の本質を表現することがよくあった。
ISASニュース, 特集号 1999.4 No.217, 長友信人
観察と発見のデザイン(三澤遥)
アートディレクター、デザイナーの三澤遥(みさわはるか)さんが、ご自身の制作された国立科学博物館での「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」という展示について、その背景や工夫などを紹介されていました(オンライン開催)。細部までこだわった点や、自分とはまた違った科学者の方々の世界観ややり方を学んでいった様子などが語られました。
WHO ARE WE | Exhibition|WORKS|三澤デザイン研究室 - MISAWA DESIGN INSTITUTE
ちなみに、その後に東京の 21_21 DESIGN SIGHT という施設での展示に行ったら、三澤さんによる作品も展示されていました:
21_21 DESIGN SIGHT | 企画展「Material, or 」 | 開催概要
社会課題解決のための協働型評価~対話とエビデンスの交差(源由理子), e-learning
源由理子(みなもとゆりこ)さんによる、「評価」についてのお話です。この回は、昨年(2022年9月)に開催された講義を動画で視聴するという形でした。
「評価」というと漠然とした印象しかありませんでしたが、医薬品の評価などとは異なる、コントロールが難しく外部要因がある社会課題での様子が少しわかりました。
「参加型」の評価は、1970代後半に出てきた時「それは評価じゃない」という批判を受けたそうです。しかし、評価結果は実施している人が使うもので、それが反映されないと、結果が活かされません(他方でもちろん、従来型の評価も必要)。参加型評価は、関係者のエンパワメントや組織強化・改善などに効果的、などと述べられていました。
事業を実施する人(「汗をかく人」)に参加してもらうのが望ましい、クレームだけ言われても仕方がない、などとも言われていました。
最後には兵庫県豊岡市での政策評価の事例を紹介しいたのですが、そこで「上手くいってないことがわかるのを喜ぶ」と述べられていました。上手くいってないことがわからないのが一番よくないので、隠さない。そしてわかれば、じゃあ次はこうしよう、という行動変容につながります。
参考: モジュール3-2「社会課題解決のための協働型評価~対話とエビデンスの交差」(9/10) 源由理子先生 講義レポート – CoSTEP
演習
グラフィックデザイン演習(池田貴子)
第1回は7月に朴炫貞さんにより開催され(参考: 2023-10-14の日記)、第2回は池田貴子さんにより9月に開催されました。以前、古澤正三・池田貴子さんらが行った講義「伝えるプレゼンテーション」(モジュール2, 参考: 2023-10-14の日記)も参考に、スライドの作り方などについて解説されていました。
著作権演習(福浦友香)
この演習は、私は参加しなかったのですが、著作権の概要が解説されたり、文化庁によるマンガでわかる著作物の利用 作太郎の奮闘記 ~市民文化祭を成功させよう~という資料をもとにしたワークを行ったりしたそうです。
プレゼンテーション演習(古澤正三・福浦友香・池田貴子・大内田美沙紀)
プレゼンを実際に行い、フィードバックをもらって、再度行いました。詳細は別途、前の日記で書きました: カクトビック数字と、数々の多様性 - 科学技術コミュ日記(2023-11-02)
実習
我々、本科ソーシャルデザイン班(SD班)は、8月に青写真に関するワークショップを開催しました(参考: 2023-10-14の日記)。青写真は、担当スタッフの朴炫貞さんさんから与えられた題材でしたが、次は、我々自身で企画します。
他の本科実習班(対話の場の創造実習, グラフィックデザイン実習)は、サイエンスカフェを企画したり、そのポスターを作成するといった活動を行っていますが、SD班は、題材も手法も自由で、他と少し異なった趣があります。
青写真イベントを終えて少し時間ができたので、改めて、メンバーそれぞれの専門領域についてプレゼン紹介する機会を設けたりして、相互理解を深めていきました。
色々な事情から、なかなかメンバー全員が揃わなかったりしていますが、毎週土曜日午前中の実習や、それ以外の時間でも必要に応じて集まり、話し合いを進めています。
映像制作共通実習
私は参加しなかったのですが、北海道大学の苫小牧研究林に行って、撮影し、映像作品の制作を行う2日間の実習も開催されていました。
参考: 映像制作選択実習を開催しました – CoSTEP – 北海道大学 高等教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
サイエンスカフェ
本科の対話の場の創造実習班(対話班)が開催したサイエンスカフェにも、お手伝いで参加しました。
対話班の方々は以前、我々の青写真イベントにもお手伝いに来てくれていました。
青写真イベント開催を経て他班のイベントに参加すると、色々とわかることもあって、興味深かったです。また、同じ本科でも、他の班の方々と交流する機会は、実はあまりないので、このような場で懇親会含めお話できてよかったです。
今回の主題となる鉱山学について、私はほとんど事前知識がなかったですが、担当された川村洋平先生のお話が上手で、またトピックとしても非常に興味深く、私の専門(地理空間情報, GIS)にも関連しており、楽しくそして勉強になりました。
参考: 第131回サイエンス・カフェ札幌「採鉱学再考~1本のマイボトルが教えてくれる鉱山開発のいま~」を開催しました – CoSTEP
選科: 集中演習C(インフォグラフィック制作)
オンラインで講義を聴講している選科は、AとC、ふたつのグループがあります。
選科Aは「サイエンスイベント企画運営」がテーマで、7月の三連休に、実際に北大へ集まって集中講義が行われました(参考: 2023-10-14の日記)。
選科Cは「インフォグラフィック制作」がテーマで、10月の三連休に、集中講義が行われました。
ちなみに、選科Cというカテゴリは本年度に新設されたもので、昨年度までは選科B「サイエンスライティング」がありました。
私のような本科生と選科生は、交流する機会はかなり少なく、また今回の選科C集中講義についても本科生への明示的なアナウンスはなかったと思うのですが、自主的に開催している「もくもく会」でご一緒していた選科生の方から教えていただいて、最終日の成果報告会を見にいってきました。
選科C生は、夏に事前課題としてどのようなテーマを扱うかを提出し、それを元に、3日間でインフォグラフィックを制作されたそうです。制作には、オンライングラフィックサービスのCanvaが用いられていました。
どれも面白い内容で、また私自身もCoSTEPへの参加理由の大きな部分としてグラフィック制作があったので、大変参考になりました。20名以上が発表されましたが、テーマもスタイルも様々でした。
選科A(イベント開催)と比べて、3日間でまとめやすく、参加者は成果を感じやすいかなと思いました。他方、こちらはソロ活動が主なので、選科Aのようなチーム活動の体験はないようでした。
もくもく会
本科・選科問わず有志で集まって「もくもくと講義動画を見て感想を語りあう会」にも、引き続き開催しています。
もくもく会については、以前も何度か日記で述べました:
- もくもくと書いていきたい - 科学技術コミュ日記(2023-05-31)
- インタビューが楽しい - 科学技術コミュ日記(2023-05-24)
やはりこの時間が、講義や、科学技術、社会などについてじっくりと話せる一番の機会となっているように思います。
また、「もくもくと課題レポートをやろう」という回もあったりして、億劫で後回しにしがちなことに取り組むきっかけとなりありがたいです。
身体や心に介入する技術に対する倫理(佐藤岳詩)
ちなみにCoSTEP受講生は、過去2年分の講義動画も視聴することができます。
ある時のもくもく会では、過去の講義を見てみようという回があり、その時に私の推薦で、倫理学者の佐藤岳詩(さとうたけし)さんによる 「身体や心に介入する技術」 (2022年10月)という講義を見ました。
参考: モジュール4-3「身体や心に介入する技術に対する倫理」(10/22) 佐藤岳詩先生 講義レポート – CoSTEP – 北海道大学 高等教育推進機構 科学技術コミュニケーション教育研究部門
身体や心に対して、マイナスをゼロにする治療ではなく、プラスをもっとプラスにする、バイオテクノロジーを用いた直接的な変化、「エンハンスメント」についてのお話です。
- 体を大切にしないことにつながるか
- 人を不自由にするか
- 人間にとって基本的なものを奪い、大切な価値を損なうか
という代表的な論点について、エンハンスメント否定・肯定の論や、ではどうすると良いか(個人・共同体・社会モデル)が紹介されました。
コンサータ(ADHD治療薬)の利用については、以下の記事を思い出しました:
【3868】コンサータによって自己の連続性を失いつつある | Dr林のこころと脳の相談室
私は、いっそ、コンサータ を飲んでいる時が、真の私であり、他は全て、異常として認識することで、それを解決しようとしました。具体的には、コンサータ が切れかかったら、直ちに睡眠薬を飲み、コンサータ が服用されていない状態をできるだけ回避することで、コンサータを飲む前の私と、飲んだ後の私という自己の連続性の断絶を防いでいるのです。
また関連した話題で、今年読んだ以下の記事では、「応援価値」という概念が紹介されていました。このような観点は、これからの変化の中で、考えるヒントになるのかなと思います:
人は4本の手を扱える?体は何個まで?→「体もう1つは余裕」 身体拡張の可能性を東大・稲見教授に聞く:「AIの遺電子」と探る未来(1/5 ページ) - ITmedia NEWS
薬物の場合、体によくないのは当たり前として。例えば電気的なドーピングというものがあります。経頭蓋直流電気刺激(tDCS)というのがあり、頭にいい感じに電流を流してあげるとちょっとバランス感覚が良くなったり、物覚えが良くなったりすると言われています。
しかもそれってやったかどうか現状の技術ではなかなか分からないから、禁止しようがないんですよ。さらにもし副作用もないとして、そういうものが出てきたときに「みんなやりますか?」という問いに対して為末さんがおっしゃっていたのが応援価値。そういうことをやっている選手を応援したいか。
そういう選手を応援したいって言う人が一定以上いるならばそれは使われるでしょうし、応援したいと思う人が少なければしばらくは採用されない。普遍的なラインがあるというよりは、時代とともに少しずつ変わっていくものですね。
応援したいと思うにはある種の制約というか、ある程度同じバンド内に収まっていてそれなりのミスもする。でないと共感も得られにくい。
うちの学生の研究で、ドライブレコーダーの映像を学習させ続けると人間と同じように間違える、錯覚する機械学習器ができたことがあります。要は、天下一品の看板と進入禁止の標識を見間違えてしまうような。
そういう、人と同じような認識をするような主体を我々は共感し、仲間として認識しやすくなっている。類似性が高いものに仲間意識を感じやすいんですね。
もう冬です。雪が積もれば、自転車で通学することもできなくなります。引き続き、やっていきます 🚲