企画展示「ななめせんなめせん」
CoSTEP本科ソーシャルデザイン実習班 によるイベント
2月には、私の所属する本科ソーシャルデザイン班で、企画展示を行いました。
ちょうど、さっぽろ雪まつりと札幌国際芸術祭(SIAF)の時期だったこともあり、4日間で640人以上が来場してくれました。
ソーシャルデザイン実習が展示「ななめせんなめせん」を開催します – CoSTEP
展示概要
北海道で1年間降る雪は、年間479 cm。この値は、北海道にある179の市町村の平均値です。実際には、1348cmも降る幌加内町もあれば、140cmしか降らない苫小牧市もあります。あなたがイメージしたのは、札幌の雪でしたか?それとも、別のどこかの雪でしたか?
また、観光地として人気の高い北海道は、旅人の視点とそこに住んでいる人の視点など、立場によってその印象が大きく違ってきます。みなさんは、どの立場として北海道を見ていますか?
今回の「ななめせんなめせん」展では、いわゆる一般的な北海道のイメージからもう一歩踏み込んで、いつもよりちょっと違うななめなめせんで、北海道を再発見することを目指します。そのため、かたむき、思い出、地図、輪郭、境目など、北海道に関する5つの体験をご用意しました。いつもより凸凹している北海道を見つめる場を通して、みなさんならではの「ななめせんなめせん」を考えてみましょう!
ソーシャルデザイン班は、当初5名でスタートしましたが、秋頃には3名になっていました。
私以外の二人は、北海道生まれ、北海道育ちの方々です。私自身は1年半前(2022年春)に北海道に移住してきたばかりで、雑談をしていると、その認識の違いが面白いなあと日々思っていました。例えば、私は雪が降ると、すごいなあ、キレイだなあとはしゃぐのですが、他の方々はそのようなことがなく、雪かきが大変だなあ、滑るなあ、などといったような感じでした。
これは北海道に限らず、どのような地域、コミュニティ、文化圏でもあることではないでしょうか。私自身、国内外に暮らしたり、様々なコミュニティに属してきた経験から、その違いを感じることが多々あります。その違いを相対的に見ることは、対話をするために重要なことだと感じています。
それで今回は北海道を題材に、様々なイメージの違いを、5つの作品を通して表現しました:
- おもいでふりつもる
- かたよりでかたむく
- りんかくをかさねる
- あつまりでふくらむ
- さかいめでわかれる
秋頃から毎週土曜日の実習で話をしていて、年末の段階でタイトルもまだ定まっていませんでした。年末年始にアイデアを出して、それを元に、年明けから約1ヶ月で作りました。
最後の設営やビジュアル作成などは、メンバー3人だけでなくスタッフ3人も全面的に参加し、6名で協力して、なんとか形にすることができました。
会場や作品の様子は、上の動画をご覧ください。
2024-04-15追記: CoSTEP公式でも開催レポートが公開されました: ソーシャルデザイン実習が展示「ななめせんなめせん」を開催しました – CoSTEP
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以下、私が制作に関わった部分などについて少し解説します。
おもいでふりつもる
事前にアンケートで集めた「雪にまつわる思い出」を、雪のようにひらひらと降らせました。
雪国の人と、そうでないところの人で、抱く思いは大きく違うでしょう。
会場では、透明な短冊を用意し、来場者にも思い出を書いてもらいました。
設定画面もあり、いろいろなパラメーターで、降る様子を調整できます。実装に使うマシンのモニターと、現地のプロジェクターではサイズ感が異なるため、それに合わせての調整が難しかったです。
もともとのアイデアとしては、CoSTEP実習の別の場面で私が紹介した「Word Cascade」というWebサイトでした:
雪の話をしていて、これを思い出し、それを参考に作りました。
技術的な話として、実装にはSvelteを用いました。アニメーションにはSvelteのCustom Transitionを使いました。以下の記事が参考になりました(参考: How to Create A Snowfall Animation with Svelte [2 Ways] - mannes.tech)。
全てのコードは、以下で公開しています:
https://github.com/sorami/snowfall-words
かたよりでかたむく
自治体ごとの「人口」「牛口(牛の数)」「漁獲量」をもとに、実際の重心から”傾けた”北海道を展示しました。
北海道に対しては「牛がたくさんいるんだよね?」「新鮮な魚を食べてるんでしょ?」「田舎なんだよね?」など、いろいろなイメージがあるでしょう。しかし、札幌に多くの牛がいるわけではありません。他方、道東では人より牛のほうが多い地域もあります。また、札幌は海に面していませんし、札幌市は人口200万人、日本でも有数の大都市です。そのような”偏り”を、実際のモノで表現しました。
私はこの展示では、データの整理や、重心・円の大きさの算出を行いました(以下は、左上から人口・牛口・漁獲量・小麦収穫量)。
下記のページで、インタラクティブに可視化を見たり、コードやデータ処理を確認できます:
Hokkaido, Japan - population, cow, fish, wheat, snowfall / Sorami Hisamoto | Observable
また、重心の計算にはオープンソースの地理空間情報ソフトウェアQGISを用いました。
参考記事: 「加重平均座標」の使い方。人口メッシュデータを使用して人口重心を求める:QGISを使ってみる - LL.me
これらをもとに、北海道本島の傾き具合と、トップ50%の自治体ごとの半径を算出して、最終的な物理作品を制作しました。
りんかくをかさねる
来場者それぞれに「北海道のかたち」を描いてもらいました。4日間で、400近くの「りんかく」が描かれました。
以下、私が書いた展示解説文を引用します:
日本地図を眺めるとき、都道府県のなかで最も見つけやすいのは北海道でしょう。これは日本の最北にあり、また他の多くの都府県と異なり陸地での県境がないため、その形が一目で判別できます。
シルエットを見せられたら、多くの人が「これは北海道だ」と容易に認識できるのではないでしょうか。北海道の素材を使った商品には、この形が象徴として記されていることもよくあります。
しかし「北海道」といっても、そのイメージは、それぞれにとって大きく異なるでしょう。
年間1000万人以上の観光客が訪れる200万人都市札幌から、6つの国立公園までを有し(2024年夏には日高山脈地域も日本最大の国立公園になります!)、日本海・オホーツク海・太平洋という三つの海へ面するこの地は、道央、道南、道北、道東、それぞれの地域に独特の趣きがあります。
ここでは、来場者それぞれに「北海道のかたち」を描いてもらい、それらを重ね合わせて展示しています。 どこから描き始めるか。どの点が強調されるか、もしくは省かれているか。訪れたことがある場所、興味がある地域、まだ縁のないエリア。その輪郭には、それぞれの体験や思いが反映されるでしょう。正確さよりも、それがなにを表しているかに着目すると、様々な目線が見えてくるのではないでしょうか。
以下は、1日目に描かれた約100点での、「描き始めたポイント」の分布。傾向が見て取れるのが興味深いです。
展示では、二つのiPadを置き、一つを描く用、もう一つを描かれたものの提示用にしました。
技術的には、これもSvelteを使っています。HTMLのCanvasで線を描いています(参考: Draw Me / D3 | Observable)。
データの保存、そしてiPad間でのデータ同期のため、バックエンドにFirebase(Cloud Firestore)を用いました。描いたパスの座標情報を保存し、加えて最終的な画像もblobとして保存しています。展示会場では常設のWi-Fiがなかったため、接続するたびにデータが同期されるFirebaseは最適でした。
この作品はQuick Draw!というプロジェクトから着想を得ました。これはユーザーが指定されたものを描くと、それをAIで判定するというオンラインゲーム(Googleによる実験プロジェクト)です。世界中の人が参加したことにより、例えば国ごとに「丸」は上下のどちらから開始して、時計回り・反時計回りのどちらで描くか、などの傾向が明らかに見て取れたりした話を読んで、面白いな、展示をやるなら何かインタラクティブなものを、と思っていて「北海道のかたちを描く」という案を思いつきました(参考: Different languages: How cultures around the world draw shapes differently - Quartz)。
全てのコードは、以下で公開しています:
https://github.com/sorami/drawing-hokkaido
あつまりでふくらむ
自治体ごとの人口を「カルトグラム」という手法で表現しました。
以下、私が書いた展示解説文を引用します:
北海道は「広々とした大地」「雄大な自然」といったイメージで知られていますが、初めて札幌を訪れる人々は、その予想を超える大都市の姿にしばしば驚かされます。
北海道には500万人超が住んでおり、これは全国第8位の規模です。しかし、その面積が広大であるため、人口密度は最も低くなっています。 道内人口のうち約200万人、つまり40%が札幌に集中しています。札幌市は、日本全国の市町村を見ても、横浜・大阪・名古屋に次ぐ規模です。一方で、道内の主要都市を見ると、旭川市が約30万人、函館市が25万人と、札幌が他の地域を圧倒していることがよくわかります。道全体をより細かく見ると、北海道全体のわずか0.8%の面積に、その人口の半分が住んでいることがわかります。
1920年の札幌は人口10万で、函館市・小樽市に次ぐ道内第3位でした。その後、1941年には20万人を超えて道内1位に、1970年には日本国内で8番目の100万人都市となり、1972年に政令指定都市へと昇格しました。
この展示では「カルトグラム」という手法を用いて、1980年から2020年の市町村人口に基づき、地図の面積を変化させています。また、市町村の色は人口規模に比例して塗られています。
日本全体と同様に、北海道も人口減少に直面しています。2023年の減少幅は4万人を超え、全国最大となりました。このような状況下で、札幌都市圏への人口集中は加速していくと予想されています。それによって得られるものも、失われるものも多くあるでしょう。
このような状況と変化のなかで人々は、どのようなところに暮らすことを望むでしょうか。
作っていて、心臓の鼓動のように思え、そのイメージに沿って色やスピードを調整しました。
私は仕事で地図を扱っているため、このような例に親しみがあります。しかし、実習で「こういうのがあるよ」と見せると、けっこう食いつきが良くて面白がってくれて、それならこの手法を使ってみることにしました。
カルトグラムの作成には、オープンソースの地理空間情報ソフトウェアQGISと、cartogram3というプラグインを用いました。
カルトグラムは、元の形がわからないと、そもそもどれくらい変形したのかが見て取れないので、アニメーションは適切な表現方法だと思います。
QGISでの制作においては、以下の記事を参考にしました。また、これを書いた古川泰人さんがそもそも私の同僚だったので、直接色々と教えてもらうことができました。
心拍数が計測できるものを会場に置いて、来場者の鼓動に合わせてアニメーションするという案もあったのですが、時間がなく断念しました。
会場で大画面でこれを映し出てみると、なかなか迫力がありました。思った以上に、様々な来場者と北海道や日本の現状と未来について話す契機になりました。
さかいめでわかれる
(この作品は、私は制作自体には直接は関わっていませんでした)
津軽海峡を境に生物の分布が異なるブラキストン線をはじめとして、様々な「ライン」が、演者の手による表現とともに紹介されます。北海道には、樺太(サハリン)や千島列島から見た「北限」と、本州から見た「南限」が存在しています。
この作品は、部屋の中央に展示していたのですが、入り口から見て、北海道を「北」から見るように設置しました。ふだん慣れ親しんでいる形と「逆」になります。
この展示案を検討しているときに教えてもらったのですが、数万年前、海面が下がったため、北海道は樺太を通じて大陸と陸続きになったそうです。しかし、そのときでも津軽海峡は存在し、北海道と本州は繋がっていなかったようなのです。
我々は北海道を、日本において「北」の大地と言います。しかし、大陸から見れば「南の端」とも言えるわけです。
私は昔、北海道の北端、稚内の宗谷岬に行ったとき、「果てまで来たなあ」と感じましたが、実際はその先に、サハリン、そして大陸があります。
北海道を違う視点から見るきっかけになりました。
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展示を終えて
私は普段、仕事や趣味でプログラミングをしており、そのスキルをこの場で提供できたのは良かったです。一方で、スクリーンを超えて、今回のように実際の空間や物体を用いることはあまりないため、色々と違いを感じる機会にもなりました。導線の検討から、照明の調整、段ボールを用いたスタイリングなどなど。はたまた自分たちで録音してきた雪の音を会場で流したり。メンバー3名とスタッフ3名、全員で協力してなんとか形にできました。
来場者に対して、私はついつい親切のつもりで「これは〜」と色々述べていたのですが、CoSTEPスタッフの朴さんから「全部最初に説明してしまわず、自分で考える時間を与えると良い」と言われたのは学びになりました。
#札幌市資料館 にて開催していた、#CoSTEP #本科 #ソーシャルデザイン実習 の企画展示「#ななめせんなめせん - Images of Hokkaido」は、2月12日(月祝)17時に終了しました!ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。 pic.twitter.com/xLG8XKj2fF
— CoSTEP (@costep_pr) February 12, 2024
北海道出身の方、移住して数十年経つ方、本州から遊びに来た方、国外からの方々、… 本当に様々な方々が訪れてくれました。一般的なサイエンスイベントとはかなり違う界隈の方々と出会う機会になったと感じています。
展示した作品を見てもらうこと自体よりも、それを触媒として、それらの方々と対話できたのが、私にとって一番記憶に残っています。
北海道に限らず多様な事柄について、それぞれの”目線”を感じられる場だったと思います 👀