科学技術コミュ日記

もくもくと書いていきたい

講義動画を見て感想を語る「オンラインもくもく会」に参加している話、そこで議論したコミュニケーターの立ち位置についてなど。そしてライティング演習を受けて、フィードバックやAI活用などについて考えたり

初夏のサッポロファクトリー
初夏のサッポロファクトリー

もう5月も終わりです。札幌の朝晩はまだまだ肌寒いですが、新緑が眩しい季節です。ゴールデンウィーク明けに開講プログラムのあったCoSTEPも、始まってもう3週間ほど経ちました。

さてCoSTEPですが、私は通学を基本とする本科生で、基本的に水曜の夜と土曜日に、演習や実習、講義があります。本日はライティング演習の第1回目でした。また、そのほかにも、受講生が自主的に開催しているオンラインの催しにも参加しています。

もくもく会

CoSTEPでは通学する「本科」のほかに、「選科」という、講義をオンラインでそれぞれ受講し、加えて3日間の集中演習を北大で行うコースもあります。

本科生と選科生の会う機会はとても少ないです。それはもったいないよねということで先日、非公式の「オンライン雑談会」を開催してみました。経緯や会の詳細は5月21日の日記で述べました。

さて、そこで「講義動画を見て感想を語る会」をやると良いのではという話が出て、ある選科の方がすぐに企画してくれました。「もくもく会」と呼んでいますが、これは参加者が集い、”黙々”と各自の勉強など作業を行うゆるいイベントを指します:

もくもく会 (集会) - Wikipedia

先週の水曜夜にもくもく会の初回があり、それから、日曜、火曜、と続いています。これからも週3回開催されていく流れになっています。また、別の選科の方も、異なる時間帯での同時視聴・雑談会を企画されています。

このような催しが、これまでの年度で行われていたのかは知らないのですが、各自がオンラインで講義アーカイブを視聴する選科生にとっては、このような機会があると、学習のペースを掴めて良さそうです。

私は本科生のため、講義は教室でリアルタイム聴講していますが、もくもく会ということでその時間には本科の課題をやったり、または講義視聴が終わったあとの感想戦から参加したりしています。

人数は多くないですが、かなりじっくりと突っ込んだ話ができて、面白い時間です。何度も書いていますが、普段の生活でなかなか話すことのない議論のできるこのような機会こそが、CoSTEPの醍醐味かなあと思います。もしこれを読んでいる未来のCoSTEP生がいて、他の受講生と話す機会がないなあと思っているなら、少しの勇気を出して、そういったイベントを提案してみてはいかがでしょうか。

ここまでのもくもく会では、須田桃子さんによる研究不正の講義や、川本思心さんによる「科学技術コミュニケーション」そのものについての講義を観て、語りあってきました。参加者のバックグランドもそれぞれ違うので、色々な現場のお話や、異なる観点からの意見を聴くことができ大変参考になります。

研究不正のデータ

研究不正の話題では、ある方が松澤孝明『わが国の研究不正の特徴と国際比較』(2014)という講演資料を紹介してくれました。そこには日本での研究不正のデータが沢山掲載されていて、不正の3割が「過失」と述べられていたり、分野ごとの傾向の違いが示されていました。

また、もくもく会にはバイオ系の方も参加されていて、その分野での研究の進め方についてなど、情報系の私にとっては違いが新鮮で興味深かったです。

「コミュニケーター」の立ち位置

「サイエンスコミュニケーター」という言葉や職種についての話題もよく出ます。この言葉が一般にどれだけ認知されているだろうか、とか、カタカナ語としての印象はどうだろうか、などという話題では、参加者の一人がある本で書かれていたことを紹介してくれました:

そして、そうやって悩んでいるのが「コミュニケーター」という、日本語としてはあまりこなれていない肩書き、職種の人たちであることが、この問題の根深さを象徴している。科学も、それを社会に伝える活動も、日本社会から内発的に出てきたものではなく、そこに内在していたものとの接続を明確には意識せずに、輸入されたものなのである。
ちなみに、滋賀県立琵琶湖博物館はコミュニケーターとよばず、「はしかけさん」という名称を使っている。この地域でもともと使われていた言葉で、本来は男女の仲をとりもつ結婚の仲人さんのような意味だという。このように「地の言葉」で新しい概念を表す姿勢は、すばらしいと思う。

佐倉統『科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点』(ブルーバックス, 2020) 「第7章 「今」「ここ」で科学技術を考えること」

私としては、「サイエンスコミュニケーター」のロールモデルがいれば、「あの人みたいな…」という感じで一般にも具体的なイメージがしやすいだろうなと思いました。会では、例としてテレビアナウンサーで研究者の桝太一さんや、さかなクンさんの名前が出ていました。さかなクンさんは、私の頭には思い浮かんでいなかったのですが、言われてみればまさにそうで、認知度も高いであろう代表的な例ではないでしょうか。

また、「職業」としての科学技術コミュニケーターと、「職能」としてのそれについての話題もありました。例えば「異文化コミュニケーション」という言葉がありますが、「異文化コミュニケーター」という職業はあまり一般的ではないかと思います。しかし、それを仕事に活かしている方は大勢おられるでしょう。同様に、肩書きに関わらず、科学技術コミュニケーションを実践されている方は沢山います。そのように職種に関わらず、様々な人がその技術や考え方を身につけて実践することは社会にとって有益でしょう。

他方で、研究者がアウトリーチ活動まで積極的に行うにはなかなか手が回らないことも多いため、そこに別途、専門の方が求められるケースもあると思います。

国内では、京都大学iPS細胞研究所にはサイエンスコミュニケーターが所属しており、現CoSTEPスタッフでサイエンスイラストレーターの大内田美沙紀さんも昨年までそちらに在籍されていました。

科学技術コミュニケーターとサイエンスイラストレーターは、重なりつつも少し異なるものかもしれませんが、サイエンスイラストレーターで研究者の有賀(大河)雅奈さんによるブログ記事では、以下のような記述がありました:

今回招待してくださったのはそこに参加していた研究者の方です。その方は、有賀を単なる絵描きではなく、研究者自身もわかっていないもやもやした研究のアイデアを、研究者とともに検討しなおし、新しいアイデアとしてブラッシュアップしていく力のある人材として評価し、応援したいということでした。

あなたがしているのは研究者の「手伝い」ではない。研究者と同じゴールをともにし、研究をつくっていく一員なんだ。

重たい言葉をいただきました。私自身が研究者と仕事をするサイエンス・メディカルのイラストレーターに期待する役割はまさにこれだし、この力を私の強みとしても、もっとブラッシュアップしたいとも思います。

雅堂 講演してきました(2023-05-31取得)(強調引用者)

ちなみに近年、研究の現場では「URA」(University Research Administrator)というお仕事も台頭しているようです:

URAとは、大学などの研究組織において研究者および事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行って、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材のことです。
(中略)
サーバントリーダーとしての役割を担った、大学等における第三の教職員とも呼ばれている新しい仕事です。

URA(University Research Administrator)とは - URAとは | 一般社団法人リサーチ・アドミニストレーション協議会(2023-05-31取得)

また、「科学技術コミュニケーター」にはジェネラルに「子供へ科学を教える」といったような形もありますが、「分子生物学の」「フードテックの」「感染症の」「原子力の」「環境問題の」というふうにコミュニケーターの専門性が必要とされることも多いのではないかと思います。

世の中にも研究世界にもCoSTEPにも、色々な人がいます。私自身は、CoSTEP開始前の日記でも述べたように、科学技術の「特定トピック」というより、コミュニケーションの「手段自体」に関心があります。サイエンスイラストレーションであったり、データ可視化であったり、はたまた言語や地図といったメディアであったり。様々な経験や技術、目的を持った人たちが、立場を超えてうまく連携していけると良いですね。「早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたければみんなで行け」という言葉を思い出します:

ライティング演習

さて、今日はライティング演習の第1回目がありました。CoSTEPスタッフの古澤正三さんが担当されています。

最初の20分でイシス編集学校からの話題など少しライティングについての解説があり、残りの時間は、課題としてとても短い文章をそれぞれもくもくと書きました。これに対してスタッフからまた後ほどフィードバックをいただけるそうです。

文章力とフィードバック

私はこの日記をもくもくと好きに書いていますが、やはり物事の習得と上達にはフィードバックが重要かと思います。ちなみに先日のインタビュー演習での課題(インタビューしてコラムを書く)も、担当された西尾さんからフィードバックのコメントを後日いただきました(ありがとうございます!)。

人間のパフォーマンスを研究する心理学者のアンダース・エリクソンは、熟達には「Deliberate Practice(限界的練習)」が不可欠で、それへ至る「目的のある練習」のポイントのひとつとして「フィードバックが不可欠」と述べていました(アンダース・エリクソン, ロバート・プール(訳:土方奈美)『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋, 2016)「第1章 コンフォートゾーンから飛び出す「限界的練習」」)。

(ちなみにエリクソンの研究は、ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルによる著作『天才!』(講談社, 2009)で「1万時間の法則」として知られるようになりました。この表され方に関してエリクソンとグラッドウェルには意見の相違があり、Freakonomicsというポッドキャスト番組ではそれぞれの声が紹介されており面白かったです: How to Become Great at Just About Anything - Freakonomics

そういえば先日、ネットで「絵がすぐにうまくなる方法」というのを見ました。「描いた絵を上手い人にガツンと直してもらい、それを横目で見て、イメージを自分に刷り込む」というようなお話です:

絵がすぐに上手くなる方法は実は存在するけど心折れる人が多いのであまり実施されない - Togetter

しかし環境によっては、フィードバックを得る機会に恵まれないことも多いでしょう。

文章力とAI

演習中、課題にChatGPTは使わないでね〜、というような話もありましたが、これからそういったツールを使って文章を作る機会は増えていくでしょう。ただ、それで全てをまかなえるかというとまだ難しく、また筋トレのようなもので自分で書かないとライティング力が身につかないのも確かでしょう。

そこでChatGPTを、自身の文章へフィードバックを与えてくれる「対話相手」として活用するのが、良い方向性なのかなあと思います。

現状の生成系言語AIについて、「GPSナビのように扱うのではなく、あなたが陪審員で相手が被告、というふうに捉えてみると良いだろう」と言っている人がいて面白かったですが、まさにそのように上手く使いこなすことができれば、これは自身の訓練においても強力な道具となるのではないでしょうか:

The wrong way would be to treat it like GPS navigation. When I have to drive somewhere, I pop the address into my GPS, and follow its instructions indiscriminately. I do generally wind up where I need to go, but it requires 0 mental effort on my part. As a result, my sense of direction has totally atrophied. I can’t go anywhere now without a synthesized voice telling me what to do. 😬

Instead of treating it like a GPS, I’d suggest treating it like you’re a member of a jury, and the LLM is the defendant, taking the stand.

You’ll listen to what they have to say, but you won’t accept it as fact. You’ll be skeptical, and think critically about every word.

The End of Front-End Development(2023-05-31取得)

文章力の上達

科学や技術を論じるブログの著者、丸山隆一さんが、2016年度に受けたCoSTEPのライティング集中演習についてブログ記事に書かれていて、そこで文章力の上達について以下のように述べられていました:

「文章力は天性のもの」という考え方と「訓練すればうまくなる」という考え方があります。3日間の演習を経て、少なくともサイエンス・ライティングなどの説明的な文章に関しては確実に上達可能だという手ごたえを得ました。そのためにはただ量をこなすだけではなく、他人からフィードバックをもらったり、書くというプロセス自体について考えたりするというのが大事だということを、身をもって学ぶことができました。

受講メモ:書くことについて考えたこと(CoSTEPライティング演習の感想) - 重ね描き日記(rmaruy_blogあらため)(2023-05-31取得)

そのとき、その過程自体を楽しめると最高ですね。

引き続き、もくもくと書いていきます ✍️