科学技術コミュ日記

おしまい

成果発表会, 修了記念シンポジウム「たったいくつものかたり」(池尻良平, 伊藤賀一,岡田真弓), 修了式 / 受講説明会, 修了生座談会 / CoSTEPを終えて

CoSTEPの活動が行われた高等教育推進機構
CoSTEPの活動が行われた高等教育推進機構

札幌の3月、上旬はまだ雪も降っていましたが、徐々に暖かくなり、雨が降り、どんどん街から雪がなくなっていきます。もうすぐ春です。

成果発表会, 修了記念シンポジウム, 修了式

2024年3月9日には、2023年度CoSTEPの成果発表会と、修了記念シンポジウム「たったいくつものかたり」、そして修了証授与式とフェアウェルパーティーがありました。

ポスターセッションでは、本科・選科それぞれの班が展示を行います。また、ステージ発表では、それぞれ10分間で何かしらの発表を行います。前日に設営とリハーサルがありました。

私たち本科ソーシャルデザイン班は、ポスターセッションでは、2月に開催した企画展示「ななめせんなめせん」を元にした出展をしました。企画展示については、以前の記事で詳細を述べました: 企画展示「ななめせんなめせん」 - 科学技術コミュ日記

修了式での展示

また、ステージ発表では「空想のめせん リアルなめせん」と題して、スライドを使ってメンバー3名でお話ししました。

修了式での発表スライド

まず、CoSTEPが始まる前に持っていたそれぞれの”空想のめせん”(「CoSTEPにどんなイメージを持っていた?」「なにを求めて参加した?」「やってみたいと思っていたことは?」)を話しました。

次に、1年間の実習でやった、Blind Contour Drawing(2023-05-21の日記)やバーバラ・クルーガーごっこ(2023-06-12の日記)、札幌芸術の森野外美術館での対話型鑑賞(2023-07-15の日記)、そして開催した青写真ワークショップ(2023-10-14の日記)と企画展示(2024-03-30の日記))を紹介しました。

これらを踏まえて、”リアルなめせん”(「どんな学び・気づきを得た?」「自分自身はどう変わった?」)について3人で語りました。

我々の班(SD)は、3名しかメンバーがいないことと、年度末でそれぞれがかなり忙しかったこともあり、準備にほとんど時間を費やせなかったのですが、他の班(本科対話、本科グラ、選科A、選科C)は我々と違い、どこも”劇”仕立てにしていました。選科はそもそもオンラインなので、コミュニケーションもなかなか難しそうでした。そもそもこの修了式も、多くの人は札幌での現地出席はしていません。

それらの後には、終了記念シンポジウムが開催されました。

2023年度CoSTEP修了記念シンポジウム「たったいくつものかたり〜歴史コミュニケーションの視点から〜」フライヤー

2023年度CoSTEP修了記念シンポジウム「たったいくつものかたり〜歴史コミュニケーションの視点から〜」を開催します – CoSTEP

「歴史」を題材に、池尻良平さんからはゲーム教材開発のお話、伊藤賀一さんは東進ハイスクールやスタディサプリで講師を務められたご経験からのお話、岡田真弓さんからはイスラエルでの文化遺産のお話などがあり、最後には聞き手のCoSTEPスタッフ宮本堂人さんも交えてパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションで伊藤さんが「ラボの中で、妄想集団が出来上がってしまうことがある。 STAP細胞のように」と仰っていて、図らずも、CoSTEP開講式特別プログラムでお話された、STAP細胞事件を取材されていた須田桃子さんと繋がりました(はじまりはじまり - 科学技術コミュ日記(2023-05-13))。

シンポジウムのあとには修了証授与式が行われ、そして夜には学内でフェアウェルパーティーが行われました。これにて終了です。

受講説明会, 修了生座談会

2024年3月21日の夜には、2024年度CoSTEP受講生説明会が行われました。その後半には、2023年度修了生による座談会が行われ、私も呼ばれて参加しました(修了生座談会は01:11:23から)。

受講を検討している方々へ向けて、CoSTEPでの体験を語りました。私は「万人にとって良いプログラムはないので、よくよく考えて」「やりたいことがあって、そのためにCoSTEPを利用してやる、くらいの気持ちで入ると良いのでは」「せっかくであれば横のコミュニケーションを大切に」などと言ったことを述べました。

2024年度 CoSTEP 受講説明会/修了生座談会 - YouTube

また合わせて参考情報として、受講生による体験記も公開されています:

2023年度 CoSTEP修了生の受講生体験記を公開 – CoSTEP

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CoSTEPを終えて

率直な感想を一言で述べると「Not for me」(自分には合わなかった)です。

多くの方々は「すごくよかった」「できるならまた受講したい」と言っていました。私の場合は、楽しいことや学んだこともありましたが、楽しめないこと、つらいこともありました。また、その分の時間や気力を、代わりに別の活動へ費やすことができたらなと思うこともありました。

自分の専門とは異なる界隈の方々と交流する機会となったのはよかったです。講義は興味深いものが多く、自分では見ないようなトピックにも触れるきっかけとなり、視野が広がりました。演習は、面白いものもそうでないものもありましたが、各トピックごとに数時間程度なので、そこまで深掘りできるわけではありませんでした。

実習は、なかなか難しいことも多かったです。今年の本科ソーシャルデザイン班は最初5名おり、秋頃に学生の2名が多忙などの理由から来なくなって、最終的には3名となりました。残った3名は私含め全員社会人で、社会人のみという形態はCoSTEPとしてかなり珍しかった(初?)ようです。他の本科班と比べて大人しい雰囲気で、あまりアクティブな感じにはなりませんでした。実習は、スタッフやメンバーによってその雰囲気や体験が、根本的に大きく変わるでしょう。もし私が来年度受講したら、かなり違った感想を抱くかもしれません。

年によっても異なるでしょうが、CoSTEPではイベント企画運営のような活動が多いです。私はソフトウェアエンジニアなのですが、この業界(特にWeb界隈)では日頃からコミュニティやイベントがかなり活発です。私が現在所属する会社も元々オープンソースのコミュニティから生まれた会社で、そういった活動に積極的です。私自身もコミュニティを立ち上げたり、頻繁にイベントへの参加や登壇を行なっています。そのため他の人より、新たな体験や学びという感じがそれほどなかったかもしれません。

コミュニティという観点では、本科と選科の交流がほとんどなかったのが残念でした。これについては先述の修了生座談会でも取り上げられていました。わざわざCoSTEPを受講するくらいなので、それぞれ興味深い背景のある方々で、プログラムが始まる前には受講生掲示板で自己紹介を興味深く見ていました。ただ、選科の方々は基本的に全てオンラインで講義を受講しています。開講式以来一度もお会いしていない方、修了式で初めてお会いする方、そして一度もお会いすることがなかった方々が多くいます。選科生が札幌に来る3日間の集中演習では、本科生と交流する場は全く設けられていません。本科・選科どちらも参加できる選択実習(映像制作共通実習, 美術館・科学館実習)で会うのが一番大きな交流機会ですが、全員が参加するわけではありません。公式では、受講生掲示板(Moodle)とFacebookグループが連絡手段として用意されていましたが、その存在に気づいていない人も多かったようです。

交流のなさが気になって、個人的に非公式の「オンライン雑談会」を最初に提案し(2023-05-21の日記)、それから、黙々と講義動画を見て議論する「オンラインもくもく会」を有志で毎週開催していたのがとてもよかったです(2023-05-24の日記, 2023-05-31の日記)。CoSTEP全体を通して、このもくもく会が、いろいろな事柄について一番深く議論できた場だったと感じています。来年度は、例えば受講生全員が入る公式Discordサーバーを最初に作成すると良いのでは、などと修了式後にスタッフの方々へ提案したのですが、そういったアイデアも踏まえてまた変わっていくかなと思います。もしこれを読んでいる未来のCoSTEP生がいて、他の受講生と話す機会がないなあと思っているなら、少しの勇気を出して、そういったオンラインイベントを提案してみてはいかがでしょうか。

横のコミュニケーションに加え、縦のコミュニケーション(CoSTEP修了生との交流)もほとんど持てず残念でした。私はたまたま、前年度のCoSTEP修了生らによる展示のお手伝いをしたため(2023-06-04の日記)、少しお話しできる機会がありましたが、その時も現CoSTEP生で参加できたのは私一人だけでした。それ以外では、企画展示に修了生が数名見にきてくれましたが、それくらいでした。ちなみに、修了後は修了生メーリングリストに登録されますが、特に活発な交流があるわけではないようです。アルムナイのネットワーク構築をもう少し工夫できると良いのではないかと思いました。CoSTEPの姉妹プロジェクトとしてSciBaco.netというサイエンスコミュニケーター一覧サイトがありますが、修了生が全員登録するわけでもないですし、そのジャンルに閉じずもっとゆるく広く繋がることのできる仕組みがあると良いかなあと感じます。

他には、先述の受講説明会でも、CoSTEPでの人材養成の基本的な考え方として「地域に根ざした科学技術コミュニケーション」などと述べられていましたが、私の関心はそれとは少し異なるため、興味を抱きづらいこともあったのかなと思います。

CoSTEPを受講する少し前に読んだ岸田一隆『科学コミュニケーション』(平凡社, 2011)という書籍に私はかなり感銘を受けました:

すなわち、人類の未来のために、私たち自身があるべき姿を模索して、コンセンサスを作り出し、それを社会のシステムとしなくてはいけません。そして、そのためには、文系・理系にかかわらず、私たちはある種の価値観を「共有」していなければなりません。そして、「科学」に関する事柄に対しても、まっとうな価値判断を下さなくてはなりません。こうしたことに貢献するのが「共感・共有の科学コミュニケーション」の役割のひとつです。実は、科学が好きか嫌いかとか、科学を身近に感じられるかどうかといったことは、本当はどうでもよいことなのです。

年度の初めに「科学技術コミュニケーションとは?」という問いがあり(2023-05-14の日記)、私は上記の書籍も踏まえて「近代社会において、科学技術の知識を市民が共有し、より良い合意形成と意思決定を行うための営み」と述べました。それが一年経ってどう変わったのかということも修了式で聞かれたのですが、私の場合は当時と変わらない意見のままでした。

CoSTEPを通して、自分の中で大きな変化はなかったと思います。ただ、色々なことを通して改めて、自分の関心があることや価値を感じること、そうでないことが、前より少し分かるようになったかもしれません。

修了後には「CoSTEPロス」になる人もいるそうですが、私は逆に、やっと終わって、自分のやりたいことに時間や気力を注げるようになるなあという気持ちです。

完璧なプログラムや、万人にとって良いプログラムなどないでしょう。また、人生のリソースは有限です。その上で、もしCoSTEPを受講されるのであれば、それがあなたにとって実りある経験になることを心から願っています!

もしなにかあれば、X(Twitter)メールでご連絡ください。

Enjoy communication! ❄️